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平成14年6月号
上石隆明 言い訳を考えていた昼食のハンバーグには目玉焼き乗る
本当のやさしさの意味自問しつつ缶コーヒーを今飲み干す
金色の髪と顔立ち合わぬ人ハンバーガーを頬張っていた
もんもんと夕餉の匂いが集まりて幸せの形見えた気がする
吸い殻を数えし夕べの沈黙はひねりつぶした時間と似て
やすらかな音を奏でる古時計吾と同じく生きています
小野田正之 降りいでて樹幹をつたふ滴々の嬉遊たりこい恋々たり地にとどくまで
咲さかる花はいづくぞをりをりに数ふるほどの花びら流る
上りつつ光ましつつ玄月のわが身めぐりの闇を深くす
ゆるやかに月曳くやうに雲ながれ遠く舟行くごときかなしみ
二瓶文子 子供らの大きくなりてひな人形飾らず弥生過ごしてしまう
意に沿わぬ任務なれども果たすべく意志の固まり勤めに行けり
遠藤たか子 早ばやと桜咲く日の加速感消しがたくして核のゴミ増ゆ
またひとり元原子力発電所作業員持病に死すとふ噂
おほぞらの警笛のやうに聞いてゐるひばりの低空飛翔のさへづり
踏み入れてしやうじやうばかま蘂のあを見たり飛行機音よぎる疎林に
風折れのコナラ一枝が執念のやうに芽吹きぬ落ち葉のうへに
水野碧祥 春 バス降りて梅を遠目に千波湖の波高くして春風の吹く
千波湖で記念写真を撮るわれら水戸光圀は湖畔みつめる
青空に吸い込まれゆく梅の花かおり仄かに母の笑みあり
花見山にうめとさくらが咲き競うわが職場から春が見えてる
齋藤芳生 堕天使の羽根ひそかに積もりゆき夜半なり君の傍らにいて
蒼き蛇からみつきたる心地して君の無言を置き去りにせり
こぼさない涙に月のゆうらりと傾くように別れもありき
手の中のモンシロチョウは羽を閉じ木造校舎に雨はしみこむ
ひさかとの光るの春よ抱き合えば君の鎖骨のあたりを滑る
スケッチブックは真っ白だから君を描くためのコンテを選ぶ放課後
バリケード嘘八百を貫いて蒼い魚のように眠ろう
野崎善雄 放心の親房ねむる草深の霊山に春今か来むかう
山あいの細きみちゆくどこまでも舗装されいてナビには出ない
ほんぐらき松の林のなが続き飯館村はまだまだ遠い
阿武隈の台地や静か菜の花のその山みちも舗装されおり
山みちにそいてぽっつり無人店大根二本硬貨三枚
養蚕と絹織ものの川俣町筬音絶えき激変産業
柴田桂花 春雨に千の椿のつらつらと鮮やかに燃え泣き落ちるなり
満開の桜の樹下たたずめば桜の心伝わりてくる
満載の砂運びゆくトラックは少女のような運転手ひとり
鋸の歯のごとき道どこまでも鷹取岩は険しき山よ
軟弱な大腿筋が悲鳴あぐ胸突八丁喘ぎつつ登る