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平成14年 7月号 | |
上石隆明 |
空高くカラス鳴きたる早朝の心のひだは乱れたままに 春の陽がめり込むように流れきて季節忘れた桜が咲けり 暗闇をいらいらさせる雨音に白き大蛇は未だ目覚めず 吾だけに帰れ帰れと鳴く土鳩枯れたる心を示すがごとく 引力に反するように倒れ込む壊れそうだよ心と体 七色の金平糖をばらまけど冬に夜空は他人のごとく |
小野田正之 |
英名ロケット伊名ルッコーラとぞ 花の十字の咲きのぼるかな 遠藤たか子が女の山脈とよびたりし阿武隈が今朝まとふうすぎぬ 緑児の喃語ゆたかになりしといふ間なくきぬさや咲かむと告げぬ そのむかし点鬼簿の点を不可思議におもひしこともやがて忘れむ 読むごとにまた生き死にをくりはへす外なし登場人物あはれ 原子力立地給付金年額四千五十六円 この地に住みて久し |
遠藤たか子 |
やはらかに葉先を透かす若楓そよぎ引き戸へ美しき蛾をおく <月の女神>の大水青蛾(オホミヅアヲ)きて玄関のかたすみ灯ともすやうに明るい 袖漬(ヒタ)す、直道(ヒタミチ)「常陸(ヒタチ)」の由来とぞおほみづあをゐるすずしさに読む 重さなき蛾のうす緑ふうはりと修司忌の夜の手のひらにに載す 鍋をまづ小鍋へ変へよと独り居のながき友言ふカップを置いて 振り上げし手斧のかたちの大陸の肩に小さしジェニンとふ町 |
水野碧祥 |
仲道氏音楽祭をプロデュース子供に夢をピアノで語る 弦の音が未だ耳に残りつつ 色紙にチェロが可愛く描かれ ベートーヴェン「魔笛」の主題に流れ来る彼の優しさチェロの響きに 金髪のリディア・バイチは十九歳微動だにせずヴァイオリン弾く |
二瓶文子 |
空の上には何があると問いたれば「クウ」と答えて笑いたる人 知る人のまた一人減り確実に吾の片方に死は忍びよる\ 連休の続けば子らのいそいそと空気震わせ旅仕度する |
齋藤芳生 |
恋人のやわらかな手に蒲公英の花かむりはやがてほどける 紅茶には<一般論>という試薬飲み終えたなら我の眼を見よ 雪柳散るひと枝をふぁんふぁんと揺らして君は寡黙であった 不機嫌な衿持よ君が守る灯のわずかに蒼いゆらめきを見る 絵葉書の角折れていててのひらに遠景となる君のふるさと 抱きしめれば五月雨こぼすぶなの木のようにぼろぼろ泣いたね君は 呼ぶだろう ぶなの梢の向こうには微笑んでいた君の名もある |
野崎善雄 |
灰濁雪解けの水山水(ヤマミズ)は消化機能す大河に入りて 阿武隈の高地横切る激流は不気味な瀞となりて静もる 瀞の上の黝き岩より蛇一すじ下りきて落ちて泳ぎてゆけり もうすぐだと息ととのへてCDの賛美歌きかう頂上近し |
糠塚たかし |
真摯なる詩集二冊もあるならば年経てなおも人が集える 雨上がるまでのなりわい欲も出てドタバタあれど夫婦万歳 人と人つなぐ仕事は良き仕事一封一葉大切にする 優しさを分ければ分けたその分が罪深くなる寂しき思い |
熊坂光一 |
好きだよと思いし女(ヒト)は嫁にゆき暗雲垂るるわが心なり 人間は自己中心となぜかしら組織の中でふと思いたり 歌作りうまくできずに非才なりそれでも友は激励したり |