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平成15年 2月号
上石隆明 溜息をすれば芒が揺れている夕日の断片棚引けるなか
熱を出し真夜に息子は饒舌にはじけたままの吾と似ており
小さく小さく生きていた吾がいた山神が嘯くごとく
東雲の冷たき空気動きだしファンヒーターの撹乱はじむ
水野 碧祥 半ドンできらり輝く昼下がり小さき店が生きててた彼の日
昼下がり競馬場にて馬券買うパドック眺め馬のつや見る
人間はみな携帯電話かけている器用な指と思うわれあり
メタリックの携帯電話さらば再びにテレホンカード胸に潜める
ジャンが出る「ドンキホーテ」のバジル役跳躍一つ我はときめく
齋藤芳生 罫線のなき紙に君が綴りゆくにほんご緩やかに丘をなす
白鳥座見送る君のポケットにひらがなばかりの会話をしまう
BBC放送を聴く横顔のふいに険しき薄明のテロ
過去形が苦手な君のもうすこしゆっくり話してみよう、私を
錆色に汚れた雪のかたまりがとけない君が待つこの道
水抜き栓を閉めた蛇口に銀色の雪にはならなかった一滴
糠塚たかし ひたすらに仕事を終えてオリオンを真上に見上ぐ良き日なりけり
おだやかに東の空が明け染めて影大島に金色の雲
疲れたる魂もちて惑いいる娘ときょうは秋の陽を見る
悪霊の一つや二ついるとしてそんな不思議を娘と語る
えいえいと邪鬼を払える若僧の吐く息白く赤井の薬師
野崎善雄 高き山は霧に包まれ静もれり癌の友今埋骨せんとす
賛美歌の流るるなかに納骨さる霧は静かに流れはじめぬ
ブドウ色を過ぎて光れりあかくろく花水木の葉の街道明るし
タイランドの医学生二人ステイして合掌の挨拶おもひがけなく
音楽の先生の笛よくひびき幼稚園運動会曾孫もはしれり
柴田桂花 越冬の白鳥達の鮫川に小さきもいて流れに遊ぶ
羽音たてて飛び交う声も高々とパン屑捕捕うるゆりかもめするどし
ガチガチとくちばしの音すさまじき餌に群がりて闘うごとく
さざんかのひとひらこぼれゆくいのちわたしとかぜがたちあっている
板谷喜和子 母乗せて櫂を軋みてゆく川の渡るにわたれぬ夢より覚めぬ
カメラマンの姿を直すさしず受く女の額に汗のひかれり
高層のホテル二日目納豆と味噌汁食べたいオムレツみつつ
内科外科耳鼻科皮膚科めぐりきてわが更年期冬に入りぬ