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平成15年 4月号
上石隆明 シャボン玉毀れる前の輝きは喘ぎ出したる日本にも似て
川沿いに築かれていく堤防に陽は当たれども春の香はせず
果てしなく飛ばねばならぬ白鳥と哀れさ色の冬の夕焼け
見付けたる腕時計が言いました 忘れた時間を僕に返せと
細長き影法師の傍らを吹き抜けていく敗北した風
小野田正之 雨の日の木ぬれのごときさびしさのありて母の忌に次ぐ父の忌
ほのあをく渾身雪におほはれて遠山なみのふかき襞みゆ
その後も殺なすなけむわが諸手咎なしとせず浄しとにもあらず
その昔ははのなくせし絹針の後のゆくへをある夜はおもふ
逝く果てのたしかにありて流れゆくみづと思ひてほとりを歩む
トーマス・マン生誕の都市リューベックに降る雪おもふ雪降るみつつ
二瓶文子 遠くへもっと遠くへ新幹線われを運んで行ってはくれぬか
コーヒー豆荒挽きにして煎れんとす日曜の午後時計よ止まれ
晩酌をしつつ夫はぼそり言うリストラされるかもしれないと
遠藤たか子 父母がきて騒立ついつになき気配犬がみてゐる居間の外より
成人を祝はな今朝はわれらよりはるかに隔つ岐路見えるとも
手つなぎて佇ちしは庭のこの辺り寒の陽ふかく松の葉に射す
八歳のてのひらかすかに汗ばむを握りて立ちぬ喪主たりし日に
畏るるは<時>照らされて夜の雨に抉られゑぐられ融けてゆく雪
なき夫の子らへの希ひおほよそは叶はざるまま獵梅ひらく
水野碧祥 「しばれる」と雪を払いて天聖寺耳にやさしく方言ひびく
地上から放水できぬ信夫山黒い煙はゴジラに見える
ヘリコプターが放水している信夫山ゴジラの火 を消しにかかれり
ゴジラとの戦闘終えた消防士ゴジラの姿はすでに消え去り
大わらじの羽黒神社は焼けずおり如月祭にわらじ担がる
奥羽山脈
安倍三惠
もう河は濁りもせずに流れゆくあなたの心汚すことはなし
きしきしと雪は戸を叩き私に喧嘩売り来る冬の童子
朧なる廃屋ひとつ有りまして栄枯盛衰かなしやかなしも
あなたとは白き雪の日逢いたきよ凍える手と手握りしめたし
さようなら その言の葉は要らぬべし一目一目を縫はぬ仲なり
漆黒の髪たゆませて闘ひへ今日も行かんや己を捨てて
板谷喜和子 客ひとり来ない吹雪の居酒屋を思い出すなり今宵ふぶくも
雪のように淡くほのけく泣く母の遠くはあらぬいのちなりけり
追えば散る追えばかなわぬ夢いくつ 雪竜巻の響るをききおり
感情に逆立つ髪をおし鎮めゴム輪一つに束ね結いたり
今朝も掃くひとつ形見の老眼鏡亡父よりながくわれになじみぬ
野崎善雄 正月の挨拶すでにくづれきてパチンコ店で「おおう」「よおう」と
絵心と絵の感覚を論じあふ友あり今年も画論を目指す
大寒といふにほかほか暖かし今朝水質検査三件きたる
3.3キロの曾孫を大きとほめられてこころ動けり右に左に
喜びの中身の変化微妙にて孫と曾孫の出産の頃の