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平成15年 5月号
上石隆明 流れ行く雲を追い越す水鳥は引力のごとく春を振り撒く
不安な気が無限に吾を襲いきて身は崩れいくホロホロホロと
鈍色に染まりし今朝の空高く紙飛行機が飛んで行きたり
冷え切った小指の先には天使いて躊躇わず一人笑っていた
道端の汚れ雪の残骸は膝をかかえし吾にも似て
大きく大きく名前を書く吾子がいてカセットデッキが逆廻りする
遠藤たか子 寒いさむいと叫んでゐるのは我のみや鴉ただふる雪を見てゐる
アウシュビッツののちに詩を書く野蛮さをアドルフ言ひき夜更けておもふ
状況は言ひがたくして曹オかり参戦を拒む国の骨格
カーテンに竹の葉翳り風邪ひけば咽喉(ノミド)が音を発すかなしも
たびたびも近づく車音雪解けの水の尾曳き遠ざかりゆく
はるの雪たちまち止んでひゆいひゆいと鳥が翔ちゆく空のもなかへ
水野碧祥 ベランダで母と見つめる安達太良を雪深くして碧空の朝
阿武隈に鈍く漂う雲のあり山越え見ればテロのアメリカ
NO WARと電飾見える福島の危険信号いまだ消えざる
ベ平連の七〇年を忘れてる闘争力の失せしわが国
戦争は「遠く」にありや「近く」にか地球平和の時季や来るらむ
「核の冬」嘘と思えぬ日々続く死語ではなくて現在に生きおり
小野田正之 さらし首に使ひしといふせんだんの冬木並み立つふるさとに立つ
父の背より夕べの空にみし記憶 冬極まりし銀杏なりしか
電線にうながすごとく嘴ふれて交尾せりけり雉鳩あはれ
きさらぎのみづの流れに沿ひうゆけばをみな物いふごときせせらぎ
踊り字といひて音訓をもたざるも漢字顔して漢字にならぶ
二瓶文子 立春の過ぎてようやく南天に集う雀の声はずみおり
凩の吹けば爪皸出来はじめ水絆創膏の光る指先
ようやくに治りかけたる爪皸のまた出来はじめ寒さ戻り来
板谷喜和子 貧困というも一間に七人の家族ありし日懐かしみおり
着物仕立の職人の子の母なれどわが長わずらいに箪笥のかろし
らかん像愛宕の寺にひきしめて笑ふ面々声なきままに
水草のわづかにゆれてそのかげに小さき魚影の命愛しき
氷りたる水槽に小さき生命ありおよぎゐるかななむりゐるかな
野崎善雄 腹中の仔ねずみ二匹けんかせり苦しよ苦し息とめてはく
前立腺癌といわれて四年半 桃の一枝戴きにけり
桃の花二月の春にうらうらし温室早咲き明るき技術
第三次世界戦争予備戦争国益いかに米英独仏
すいせんの白く清らな朝風に曾孫生まれり大あくびして