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平成15年06月号
上石隆明 蛙にも蛇にもなれぬ闇の中支えるものなき邯鄲の夢
蹴り飛ばす空き缶ひとつはね返すカーブミラーは春の陽映す
ブランコにひとりぼっちの寂しさを置いてきたのはあの日の自分
早朝の親子のけんかの虚しさはコロッケパンの貌にもにて
大木はいつもそこに立っている二人の息子は給食の時間だ
小野田正之 きぞこよひ月かうかうと照る石の咲くにまだしき花のごとしも
遠くとほく空わたりきて風花は日のさす庭に消えゆきしのみ
ひと踏まずなりたる庭にいつぽんの樟の木立てり立てるさびしさ
三月の風を呼びつつ竹むらの竹やはらかに風にしたがふ
降るあめに紛れむとして紛れなくモーブ重ね阿武隈がみゆ
上弦の月ひかりつついづこかに花咲くごとき幼子のこゑ
抱かれて歳月知らぬ緑子が散るはなびらの中を去にける
二瓶文子 じゃがいもを植えたる後のなごり雪今日清明のニュース流れる
北向の斑雪小さくなる夕べまたも静かに雪の降り出す
まだ遠い春と思えどふき清め母といませば時には楽し
水野碧祥 生クリームで吾妻小富士が塗られおり種蒔き兎見えぬ今年は
春霞む奥羽山系眺むる朝は清きかチグリスの民
地下道に降りたち見れば防空の呼吸苦しさ感じてやまぬ
チェニジアに勝ちしビデオを今宵見る世界の国旗でスタジアム燃え
国連よりフィファの加盟は多くして戦をせずにボールを蹴りつ
板谷喜和子 凍豆腐晒すさ水の濁り水いくたびかえて春の水透く
やわらかき朝の日浴びて蛙道の冬草雪消の水にひかれり
年金の書替え通知に今年もまた生きられそうねと麻痺の母笑む
妻も子も捨てし独りの兄の部屋夜風に一枚パンツゆれおり
酔いどれて化粧落とさず寝し夜の鏡台まざまざ吾を映せり
野崎善雄 保育所の欠食児らもニコニコだでももう少し足りない様子
コッペパン・ユニセフミルクに耐えてきたあれは大切な学びだ今も
ユニセフのミルクで腹をみたせし子ら既に停年となりにけるかも