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平成15年目次
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平成15年 7月号
上石隆明 ジャムの瓶斜めに蓋が開いておるが無口な時のおみなに
緩みたる赤土の上を行きたれば忘れ去られた足跡があり
行く末の不安のみが沸き上がる区切りはなくて春の動揺
ミラー越し紅ひく人はおもむろにライオンのごとくあくびをしたる
新しき芽はくすぐったく出そろいてつぶやいている陽炎の中
近づけば消えてしまいそうな君がいてつぶやくように受け止めてくれる
水野碧祥 しだれ桜の花数ひらが舞いちりぬ新芽眺めて寂聴法話
御朱印の墨の香に落ち着くきぬ本堂脇の暗き畳間
雪うさぎ小富士の山に添うており吾妻嶺に雪いまだ残れる
大ぶりの扇子は風を運び寄せ湯上がり君の鬢のほつれ毛
板谷喜和子 旅立ちの朝のぬか床ならし終え化粧する手のかすかに匂う
春雷はゆうべの闇にとどろきて今朝は浅間の山の澄みゆく
湯あがりの髪のしめりの乾く間の頬にやさしき浅間の風は
しらじらと桜一樹の上に照る月におもわず夫ゆり起こす
車椅子に巡るさくらのはなびらが渦巻きなして母に寄り来る
野崎善雄 「四季の里」のサッカー場は少しだけ冬残しをり風やや冷たし
サッカー場は広しひろし大声で呼べど彼方にとどかざりけり
サッカーの球はこんなに重いのか・一メートルが我が力にて
大春日こんなによい日はあるものか・よぼろよぼろのわがぬた歩き