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平成15年 8月号
上石隆明 休日の居場所がなくて浮遊するどんぐりの吾は転がりしまま
悪口を言うためだけに生まれ来しあんな人もいるよ夜は長くて
脂肪にはならぬ事を願いつつ冷やしラーメンひと口啜る
辛夷の花が咲きて吾の心目覚めることを忘れてしまった
玄翁を振りかざすその傍をぼってりとした時が流れる
冬の日の夜ごとしんみり寝返りて横切っていく落ち武者は誰
水野碧祥 茂吉館にて蔵王の嶺を眺めつつスケッチ描く軽きペンシル
茂吉館で機関誌読みし正午過ぎ空腹のわれ力餅食む
間引きされ杉の切り跡初々し土に還る日山を育む
山道に寂聴植えし紫陽花は「葉月に咲く」とわれは聴かさる
歯に沁みる桂水が湧く天台寺心の渇きを癒す寺なり
読解辞典
安倍三惠
トンテンカン緑の御山ははげ坊主キツツキや君を思ひけるかな
真実と嘘を知らざる強き夜はサンダル脱ぎて君を抱くなり
水音を立ち上がらせて輝けるパステルカラーを見せし噴水
永遠にすれ違ひつつこの恋よ完結をせぬ絵巻であれよ
君に幾度濡れし羽衣みせただらう一生を賭けて埋めたしこの溝
君がため惜しからざりしと詠む君よ 淋しき君を抱きとめるなり
板谷喜和子 縁側に足をブラブラさせながら母の白髪ほやほや渇く
節太き指となりりにし十年を介護する手をしみじみ見つむ
一日を言葉交わさぬ母の部屋ただ謐けき降る雨の音
野崎善雄 東北は寒さ解除よ今朝の空のエメラルドグリーン春よ来ませり
サッカー場の広き彼方と大空のすき間を往来する見ゆ
松林こえて車の走りゆけば天近し松ヶ枝の天近く
この山は公園化される花崗岩の長き石などきざまれゐたり
遠藤たか子 県道にぽたんぽたんと黒土が落ちて原発止まるふるさと
町かどの百円ショップ流行る世を牡丹見てゐる傘さして過ぐ
大輪のうす紅牡丹なかぞらに盛り上がり朝の雨享けてゐる
人頭大ぼうたん揺れてころころと雨滴しづかに葉をこぼれたり
白ぼたん<白鶴天翅>崩えはててふいに青葉の闇ふかくなる