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平成15年目次
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平成15年10月号
上石隆明 八月のカレンダーに印なく盗人となる月曜の朝
いつからかカレーライスが御馳走にならぬ夕餉に酒量は増える
さよならと振りたる君の指先に秋のひかりが見えた気がする
水中に漂う君を捕まえた空っぽの夢に味噌汁匂う
午睡より醒めたる後の悲しさは咳払いした父の後姿
いつよりかやじろべいが揺れている日本の景気示すがごとく
パキラ
遠藤たか子
あゆみきて茶房に座せば梅雨晴れの欅の木末窓になびかふ
空調に透け葉かすかに震ふともパキラ大きくそよぐことなし
よぎりたる車がガラスに遅れつつ映る実像よりきはやかに
くりかへす集合離散を見てきしはパキラか卓に影をおとし立つ
上着かかへて歩める人のワイシャツの白冴え冴えと昼を行きかふ
水野碧祥 地震による被害者の苦を短冊に書きし人々七夕準備
仙台のコンビニ全て地震募金クリスロードに笹の葉飾る
三越の前に開かる露店あり鬼灯朝顔われは買いたり
笹の音が鎮守の森に響きつつ闇の中へと吸い込まれて行く
田舎での楽しい集い「田園」にジゼルで踊る村娘見る
初恋
安倍三惠
紫陽花の水の滴りふるえてるこの日に君の思い出燃えた
いとしさは一秒で散る花火より心に多分華やいでいる
ドラマにはならなかったけど君の匂い癖になってた幸せでした
片方のピアス落として舌出せばあなたは赤い初恋くれた
溜息が星になれよとマグカップの湯気が私の指を離れて
野崎善雄 掃除機を動かして部屋あらたなり長期介護の妻午後かえる
こ財布をぶちあけ「今日はあられ買うた」妻の近況
南天の枝からめしめ蜘蛛の糸たちまち露で銀杯となる
なんてんの梅雨の白玉ほろほろと庭にこぼるる明日晴れるらし