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平成15年11月号
上石隆明 奪われし心ひきよせギター弾く二つの耳はこぼれてしまった
ほらほらほらこんなに明るくなれる日は山いっぱいの枯葉が匂う
あきらめの顔をした人多くいて武骨になった今の日本は
二人にはあまりに時間がなさすぎて蜆の味噌汁冷めてしまった
言の葉は風に乗りつつ消えていくひとつの生命を削るがごとく
水野碧祥 今にても交流ありき伊太利亜と支倉常長蹴玉運ぶ
支倉は手合わしている無言にてクルスのひかり暗き世を救う
ベガルタの蹴玉飾りつられおり笹の葉さらり風に揺れてる
笹の葉のうえから流る宗幸のやさしき声はミサに聞こえる
七夕の飾り描ける木のこけし不景気なきをわれは祈りつ
三春近況
斉藤芳生
恋人の日本語歴は二年にて初めて我のギターをほめる
また祖母が「結婚」などと言い出して卓に残されたるよもぎ餅
寄り道の主犯・共犯この双子を叱ればいつも名を間違える
まなざしを濡らす冷夏よ邂逅は君という湿度をなお帯びて
君の弾くギターの音のほろほろと窓をこぼれて月に光りぬ
三春駒小さく鳴けりじいさまの桜が眠るダムの静寂に
野崎善雄 なが雨に天気予報士困りをりなほ続く雨九月となれり
一竿数十万円という七夕の竿ああ雨にうたれる雨よ雨よ
仙台の七夕祭りにぎにぎし強雨の中で傘重ねあい見る
花ゆかたデパートのなか涼しくて金魚模様の童女たのしや
つゆ雲のうす墨色のその上に降りかねてゐる渦まく紫雲
ある季節
安倍三惠
揺れない声で君は去る さよならが薔薇色と私思っていたい
会いたくても会えない時に黒い字で手紙を書くの 鴉の言葉で
夕映えは夜へと移行する儀式 一日を忘れる切ない儀式
風鈴をからからしまい夏終わる胸の金魚は行方知れずも