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平成15年12月号 | |
上石隆明 |
水分の足りなき吾は何を待つ激しき雷過ぎ行くまで 脱皮せず終わりなきまま人生の折りたたみ傘をリュックに詰めたし おおざっぱに物事出来ぬ吾の癖机の端をいつも拭いている 揺れ動く我の気持ちを隠すためペダルを漕げば風は気まぐれ 十月の青き空を突き抜ける金木犀の香りは嫌い アイマスクで覆ってみたい新宿の人混みの中に零れた私 ミルクティー飲み干し晴れた休日は取り残された吾も旅人 |
遠藤たか子 |
しばし目を瞑り数ふる原発に働くめぐりの幾人の顔 配管のひび操作ミスありながら原発稼働すわが恥のごと さうやつて一生ゐれば憤るプラタナスわれを許させたまへ 家ぢゆうの廊下に畳を敷きつめて父母をり驚くわれを見てゐる なるほどバリアーフリーかもしれず濃くにほふ畳の廊下そろそろと踏む スリッパを使はぬ家ぬち心地よくなにかかなしくお風呂まで行く |
水野碧祥 |
かの暑き明治村での思い出は「別荘涼し」と清見氏語る じゃん拳で勝ちを他人に譲らむと手のひら開く大きな手あり 浪漫亭にカツ丼食むも懐かしき帝国ホテルの椅子にすわりき 歌会後の喫茶も食事も楽しくて連れられて行く時季ぞ楽しき 突然のお別れと聴く永久にとか九月九日重陽はやし |
野崎善雄 |
夜を徹し日を昏くして降りし雨ピタリと熄みぬつゆ光らせて なよなよのモルフェ洋菜いただけりその開墾地は秋深きらし 腰痛にうつうつこもる秋の午後ここだに咲ける菊の鉢植ゑ 介護舎の妻が土曜に帰りくる鬱と希望の手荷物もちて 備蓄薬使用期限の気配りを業務となすはかなしくきびし 土曜夜アルバイトより帰り来し孫よ!はよう風呂はよい湯だ 予備校のアルバイト教師孫にして赤ペン答案びつしりもちて |
板谷喜和子 |
行く末は青テントかと笑みおりて母を泣かすか兄の成れの果て 一缶のビールに素早く眠る兄ここふる里は十年ぶりか 兄の去る後姿を見送りつこれが別れかと老母はつぶやく 放蕩をつくしてなおも嫌えぬは子供の頃のやさしき兄なり 帯しめて一本の扇たばさめば凛とするなり心も躯も |
冬の支度 安倍三惠 |
口笛を吹く青年の真似ばかり試しているの少女のわたし 隣はだあれもいない喫茶店少し前には青年がいて 震えてる躰を尻目に氷水幾つ食べても貴方は来ない 鉛筆は紙をすいすい走り去り虎となれぬと承知までして |