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平成16年目次
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平成16年01月号
上石隆明 羊雲吾を残して消えていく夏の寂しさ薄めるために
土の中新しき嘘をつめ込んで耳朶ひとつ落ちてしまった
ぽっかりと吾の存在見失う流れに負けたか渋谷駅前
隙間より射し込む夕日鮮やかで秋の悲しみ包んでくれた
隣国の核弾頭に怯えつつ吾の一日変わることなき
限りある時間に遊ぶひとときの吾子と揺るるブランコ早し
遠藤たか子 思はざる十一月の暑さかな朝顔ちひさく咲きつづく庭
病めばもう首輪外さむ放ちやる草の臥床をよろこぶ犬は
蒼天になぶかふ雲よ犬踏めば早叢の風にミントがにほふ
柿紅葉いちじく枯葉が犬ねむる月夜をばさりばさり落ち次ぐ
くら谷へふる初時雨きらきらと針のごときが音ひそめ降る
苦しさに喘ぎてゐるも呼べば応へる犬なり 「みなみの島へ行かうよ」
パリ
水野碧祥
マドレーヌ寺院に聴くは<鎮魂歌>ドームに響けモーツァルトよ
オペラ座の幕開かずしてきょうの日は駅の近くに道化師を見てる
オルセーにゴッホ見るため並ぶわれ<自画像>に見る緑萌え立つ
エッフェル塔登りてゆけばパリの闇シャンゼリゼに光揺れてる
エッフェル塔何処でも見えるシテ島に高層ビルのなきぞ嬉しき
恋愛体質
安倍三惠
街外れガード下には十九のあたしが立ってマッチ配って
灰色の河の流れの風景画 二度と会えないもどかしさのよう
手紙には恋愛体質マイナス5と標示されてる紙がはためく
少しだけ淋しさひとつくれてやる綺麗な嘘を手紙に仕立てて
決別はもう終わったの貴方からひっぱたかれた赤い頬持ち
ごめんよと思いっきり蹴ったドア後ろを見ずに私は跳ねる
野崎善雄 安達氏の描きし山寺芽葺は彼のスーベニアと思ひてみたり
喜びの深さ広さを老いて知る食用菊いま威勢よく咲けり
二十メートル走る能力おぼつかなし伽羅葉は黝く冬に来むかふ
広口の花器二つ連ねつつコスモスを活く豪奢の一日