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平成16年目次
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平成16年02月号
上石隆明 ブランコの窪みに映る秋の陽は山茶花までも吸いつくしおり
寂しさを蓄え伸びる枝の先狂いているか日本も四季も
たましいの羽衣着せられ正座する老いたる人は微笑むばかり
庭先にひっそり咲くは曼珠沙華介護疲れの母にも香れ
自らの意志も無きに飼われたる金魚三匹丸々太る
鑑札を付けた牛が言いました「そんなに俺が悪いか」と
遠藤たか子 喪の家は静かに烈し屋敷林黒々と立ち寒夜を醒める
息子にはなにかをまづは食べさせん霜土の葱堀りてゐる
思ひ起こせば夫の葬にも子のそばに君はをりたり中学生の
葬式はしませんと言ふ家をめぐりゆつくりと去る車また見ゆ
イラク派遣の隊員は何歳くらゐだらう子の友二十八歳で逝く
枯れがれの蓬吹かるる野を行きておもふは多くすでに亡き人
そこにある陥穽ときに視えざれど何があつてもおまへは生きよ
ねぶた祭り
水野碧祥
九年前ねぶたに来たが跳ねられず下から見てた「ねぶた」大きく
急旋回ねぶたの山車は角曲り逃げるわが目に武者絵飛び込む
竹の音がばりばり聞ゆねぶたにて跳ね人(ハト)の人間は小さく見える
テロ前の米国人は乗り良くてともに踊ったわれの夏あり
「太太鼓・跳ね人やりな」と女将言うレッスン受けて太鼓叩けり
遠回りな話
安倍三惠
必要なはなしがすんで帰る頃胸には缶コーヒーの温かさ
君といてせつない話するだけの間合いを取って光るネオン
正直に好きだよと言えない私は遠回りして何とかしてる
夜の河 雨音の波  聴こえてる 君と私の繋ぐ橋から
つまらない結末でした細胞は私の躰を再生しながら
八つ手
野崎善雄
ほそき雨静かに降りて八つ手花白くふくらむ冬はじまれり
八つ手花大円錐穂高々と葉柄の上に気高い白し
冬の昏さ刻々増しつすすむとき大八つ手花白く残れり
八つ手の葉黝く大きくゆうらゆら小雨にぬれて外燈光る
板谷喜和子 お早うと言えばかぼそい声に鳴く子猫は今日も餌欲りてくる
猫の背に深き傷あり哀しげに鳴きて吾には今日近づかぬ
父の齢越えて深まりゆく秋の形見の眼鏡に読むかりん集
十二月居酒屋「古雅(コガ)」とうわが付けし店の開店ぼたん雪降る