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平成16年03月号 | |
上石隆明 |
魂が抜けるがごとく晴れ渡り吾妻の山に鳶が飛びゆく 待つことに慣れたる午後のひとときの市民温泉人で賑わう 安定剤飲み干しながら思うこと冬は来たりて掌を突く 悲しみが川の流れになる事を堪えているのか父は老いたり 虚ろなる目をして吾を見つめたる老いたる父の手のひら温し 曇天の冬に和めぬ目眩あり伸びきったままの自分が嫌い |
遠藤たか子 |
明け暗れの空をあふげば鳴きかはす白鳥の群れわが屋根を越ゆ 朝湖の水面を蹴つてとび翔つは番なりしや羽根かがやかす 羽たたける一羽につづく数羽なる白鳥撒き餌をめぐり争ふ みず鳥が犇く湖をくいくいとすりぬけ泳ぐキンクロハジロ 白鳥の羽交に水の飛沫散り湖岸葦原夕かげり初む こもごもに鳥座(トグラ)を出でし鴨の群れ胸毛を水に映し木隠る 咆哮ののちを白鳥ながながと首さし入るる夕べの水に |
戦@ 水野碧祥 |
ただ一つ永久の平和を祈りつつ「乙和の椿」歌うわれあり 義経の身代わりなると継信の消息を聞き乙和悲しむ 戦なきこの世願いてわれ歌う<歓喜の歌>よ宇宙にひびけ 安積山<うねめの里>の悲劇なりバレエ創れど戦で行けず |
春雷 安倍三惠 |
あちらでは雷が鳴り見物をしている私 ご免なさいね 馴染んでるドラックひとつ頂戴よあれがないとね溶けてしまうの 何故だろう君の気配のしない夜帳簿記入を抱きしめている 枝豆のソネットの響きひろがりて茹でる合間にしあわせが来る 仕事する手休めながら君のこと九時の時計は考えている |
板谷喜和子 |
しんしんと雪降る宵の寂けさにふかふか温き白米を食む 冬の日をそこにとどめて卓上の籠のみかんの甘さは満つる 老ゆるとは切なかりけりしまい湯に母の汚物をざぶざぶ洗う 白足袋のこはぜはずして脱ぐ喪服たまるら映る寂しきそびら |
野崎善雄 |
眼をつぶりそつと鏡を見る時に意外に美男子虚にある私 電線に黝くならべる椋鳥たちオホーツク海から冬がとんでくるぞ 新産物テロ用各種あるらしくそつとさはるな日本国事務官 応挙の絵虚実のうまさを知り得たりその絵のなかに自づと立ち見し |