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平成16年05月号 | |
上石隆明 |
息呑めば遠くに聞こえる人の声生き物のごとく受話器を置けり キラキラとアイスバーンは続きたる父亡くなりし保科医院へ 過ぎて行く時の遅さに驚くも看護士ひとり走り回りて 片隅の車椅子には父は居ずガラス窓に雪降り積もるだけ 自販機に潜む闇を怖れつつ吐き出されしビール飲み干す 星屑はまとめられずに輝くも帰る場所は何処にあるのか |
遠藤たか子 |
削られし山の斜面の土ぼこり黄を撒きてゐつ春の疾風(ハヤテ)に みぎ火発ひだり原発早春の風の岬は波荒く寄す なにを見て佇つ女にやあらん前方(サキ)は過去(サキ)沖へ沖へと潮煙這ふ 行くたびも海へ降下す風なかのカモメ見飽かずさとはしる波 仮退所の少年Aは子と同じ歳なり生きてゐてよかつた生きよ 春一番吹きしを告げる夜のテレビ消せば闇濃し本隊が発つ |
水野碧祥 |
プラハの春プラハフィルの<運命>に戦車の音と悲鳴聞こえる 戦争にパブロ・ピカソは抗いてわがTシャツの鳩は描かる テトの朝銃弾とばぬ市街地にアオザイ着てる女人うつくし アフガンの少女の笑み爽やかに「忘れないで」瞳語りつ |
板谷喜和子 |
パーティに浮かれて酔えど夜の道急ぎ帰らな病むものの辺に 朝の日に傾ぐ氷柱のしずくして露天の板場早も凍りぬ 大雪の朝門辺に朝刊を配りてゆきし深き靴あと 扁桃腺癒りつつある喉もとを桃のゼリーがつるりと通る |
野崎善雄 |
二月雪たちまち晴れて阿武隈の稜線鮮か雲かさかぶる 山頂の雲笠消えてゆきにけり笹鳴ききこゆわが立つ近く 田の小みち小学生らが一列に登校するよ頭巾かぶりて 介護施設のじじとばば挨拶忘れてただ食うは淋し |
二度目の恋 安倍三惠 |
君になら命ひとつあげてもいい カンナのような激しき色の 生傷が行ったり来たり迷うから三度目の恋はいらない 春を踏み月から落ちた約束をただひたすらに影追い求める 手も口も出さないで ただ見ていてよ バランス鈍る私の顔つき メモリーをひとつ消します思い出は昇華を辿り星になったから 生も死もあたしの一手それだけで決まってしまう 王手飛車角 |