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平成16年07月号 | |
上石隆明 |
頭の毛燃やしたき衝動に駆られた午後のハムサンド旨い 明朝体その滑らかさを憂いいて丘の画映すパソコンおとす 薔薇を抱きあの浴槽に沈めたる吾の心は臭いもしない 身包みを破がされしごときバスが行く車体広告街には映えず 過ぎて行く車窓に映る横顔は蒼さだませぬ落人のごとき 吾子にまだ初恋の人は現れず学生服の袖も長くて |
遠藤たか子 |
蒲公英の茎立つ微毛透けながら陽を享くひと日のうちの数分 まだ蛇は見ないが蝶も蟇もゐるしんと明るい萌黄葉の庭 もうすこし続けませうと花粉症出さるる桜若葉の窓に テント張られ白線引かれ芝原がサッカー場となる五月のある日 開会式のアナウンスなども流れゐしが日暮れて誰もゐぬ芝原のこる 水張田を休耕田の劃(カギ)る景当然のやうな日本に住む |
水野碧祥 |
朝夕の吾妻小富士を眺めつつわれの職場のパノラマ開く 菜の花も土筆・たんぽぽ咲く堤吾妻小富士は青く澄みたる あおぞらの飛行機雲は真っ直ぐに吾妻小富士の上を進みつ 小富士には種まき兎浮かび出で須川に流る雪解けの水 雪うさぎ淡く小さくなりゆきて田にさざ波が風に光りつ |
板谷喜和子 |
わが植えしさくらに問えば風なきもささやくようにゆるる花びら 春の陽をよせゐる海よわがいのちわづかばかりを輝かせゐる 先生の息子と私気が合って恋人にあらずただの医者なり 俳優の横顔のよきシーンをたのしみ見てゐる老い人われは |
セルフタイマー 安倍三惠 |
君よもし運命を幸福と言えるなら今も幸せと言えるのか 青空が天まで届きあたしたちちいさなちいさな恋人同士 桜花二つの影が一つの時ひらひら舞って包んでくれよ ハナレテ・マテナイ・サマヨウ私たち行き場のない魚のよう |
熊坂光一 |
桜花季節めぐりて咲き満ちる信夫山には人の洪水 幾春も桜は咲けり信夫路に吾も生きたし桜のごとく 葱苗を今年も植えし父親は八十七にてガンを克服 |