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平成16年10月号 | |
上石隆明 |
田んぼにはとっぷり埋もれる雉がいて夏の匂いが濃くなり始む 夏の空たっぷり水を膨らませ困らせているのか今の日本を 吾もまた絶滅したる獣かな東京駅のホームに佇む 大地にはへばりつきたる吾がいて見えなくても空を憶っていたい 夕闇に石を沈めて夏が逝く微笑み返す人もいなくて 竹林の臭いなつかしこの小道あと何年生きているのか |
水野碧祥 |
陽の落ちて月昇り初む夕べには神聖なりと思いたくあり 十二尋に飯坂街道広げらる美麗な舗道われは歩めり 枕辺に扇風機つけ熱帯夜タイマーの音が静かに聞こゆ <四季の里>水車回る館あり抹茶と胡麻のソフト美味なり 渓流の音をおかずにもみじ見る昼餉広げるフィールドワーク |
板谷喜和子 |
麻痺の母と弱いこの身を支えいる夫の寝息のひときわ高し 夜半目覚めてそぞろに歩く人の音片耳に聞くそばだててきく それほどのこともなかりきほどほどに生きて朝の水のうまさよ 麻痺の手に紫蘇揉み母も手伝いて白加賀十キロ炎天に干す |
夏いろいろ 高橋俊彦 |
火消しにてわれありしかば外つ国の山火事にさへ心さわぐも 玄関のあがりがまちの下闇に抜け殻を置き蝉は発ちにき 佳き夢を見むと欲して眠剤をひとつ含めば花野ひろがる 一杯のお茶を飲むひまも茶毘の火はせめぎ合ひゐむ友の体に 立ち昇り動くことなき夏雲の哲学者めきわれに言問うふ 友がらはなべて元気に暮らしをり六十七歳あと三ふんばり |
もののふの 公共料金 安倍三惠 |
山も樹も大好きだからここに居るキツネの嫁にはまだまだならぬ カラオケで最高点を弾き出しほくそ笑んでる凡人の凡 特別に種も仕掛けもないようであるんじゃないの魔法瓶さん 白よりも黒の姿で街歩くブラックジャックに会いに行くため |