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平成16年目次
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平成16年12月号
上石隆明 兄弟のけんかが続く日曜日唇の先に言い分があり
親もまた傷ついている学校の参観日には笑顔おもくて
女の前泣けぬ男の性がありタンスの中にハンカチ隠す
ひっそりと風鈴鳴けり縁側に無言の秋が届けられたり
宇宙船飛び立つ広き土の上枯れ葉カラカラ転がっていた
物事の本質見よと責める声無傷なままの昔の自分
寺山修司記念館
水野碧祥
寺山の引き出し開けて覗き見る光り怪しい懐中電灯
右袖の底に潜みし黒電話語る寺山受話器で聴きつ
寺山はシガレット銜え歩を進め馬のようなるやさしき目
原稿に書かるる文字を味わいて灯りで照らす時間のいとおし
天井の桟敷に座る寺山よ人間を見る目はやわらかくあり
齋藤芳生 看板の真青なる旅行代理手に君の母国を見ている しばし
母国語も第二言語も宙に浮き返信がないという返信
君がふいに歩みを止めて探すのは夏草のにおいではなく故郷
子らの朝顔一斉に発芽する夜の湿度に雨期は始まっている
「安全上」もう君と乗ることもない回旋塔は撤去されたり
板屋喜和子 亡き弟の運動会は楽しかり一等賞のノート重なる
風呂水をバケツリレーに汲みし日の弟二人ひとりとなりぬ
ショートステイに母を送り来わが重き足の靴ひも結び直しぬ
いつの間に聴くこえぬ右の耳に鳴る死産せり児の鳴き声しきり
友を葬りて
高橋俊彦
ぼうたんの古枝を鋏む音のみが響きて園に午後の日は照る
庭すみに小花をかざし勢ふは母の手植ゑの紫式部
熊啄木鳥は場所違ひけむわが庭の公孫樹の幹を頻りに叩く
老いらくの恋とはいはむ君ませば百日紅の花のごと燃ゆ
そが母の去りにし訳を一言も問わぬ子はあはれ三十路の今に
くすりにて支えられたる半生と診察券の古きを眺む
みどりの香り
安倍三惠
少しだけ貴方の精子欲しくって混ぜてしまえばみどりが香る
福島も雨雨雨が降るからさ幼き虫も雨宿りする
飲みかけのコーヒーカップ洗っても消えない恋の光りの水
ふるえてる貴方を抱いて空高く飛べたら良いね 光はちかい