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平成17年01月号
揺れる
上石隆明
本当に人に逢いたくない午後の風に吹かれる月の雫は
気休めを話してくれるその時の君の唇はれぼったくて
ああここは安心な所なんだなあ砂漠のような君の言葉も
ひそひそと秋桜ゆっくり揺れている秋を見届け別れるごとく
風の中君と歩幅を合わせている遠い記憶にならないように
自転車を揺らせて吾はひとり漕ぐ鰯雲が呼んでいるから
奥入瀬
水野碧祥
ほそぼそと<千筋の滝>は岩つたふ鏡にわれの首しわ見てる
奥入瀬の九つの滝われは見る森の中には白糸の落つ
奥入瀬のみどりの小径歩むわれ真陽<マヒ>を遮る紅葉うつくし
みどりなす紅葉眺めるわれの眼に蜻蛉がペアで空を飛びゆく
山毛欅林にかなかな蝉の鳴きておりわれに涼けき秋はくるなり
ひかり
安倍三惠
泣きじゃくる私をひかりと言う君よ ひかりはもっと強く大きい
一台のジープが困り果てていて人間は皆集まるばかり
やつれている桜の肌の切り傷をためらいもせずそっと触れてる
さくさくと香る林檎のはなびらを抱きしめたくて夜の汽車に乗る
道端でおしゃべりしている人たちは変わった心で私を見てる
ジェンキンス氏
高橋俊彦
平服のジェンキンス氏は米国の基地にしありて不動の挙手す
脱走の罪を認めて妻子らと静かに暮らせ佐渡の小島に
二箱の電車は今し渓谷をよぎりてぞ行く夕日を乗せて
ひむがしにオリオン星座の輝くを九月初めの明け方に見つ
甘辛き金子みすゞの生きざまを唄う役者のこゑ澄み通る
新聞の休刊日こそ瞑想の時なれひとり茶を啜りつつ