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平成17年05月号 | |
上石隆明 |
田を白く白鳥の群れが埋め尽くし猪苗代湖に強き風吹く 降る雪が大地を癒し呼吸する無言の湖は空より蒼し 俯きし子の姿には現れし心の危うさ思いがけずに しっかりと手を握れば震えたりもろき心根脱皮せぬまま 狂おしく炎ゆる夕日を背に受けて白鳥の群れ過ぎて行きたり |
野崎さんを偲ぶ 水野碧祥 |
鳴呼!君よ天に召されて七日たつ「もう帰ろう」の言葉残しつ 生涯を教会に糧見出して仲間と身内に君は送らる 「家族との日曜ミサが楽しみ」と野崎義雄は微笑み語る 九十歳越え水質検査する君の白衣姿は凛々しくてあり 風景画好んで描くカンバスに絵筆運べばベレーが似合う |
市民温泉 高橋俊彦 |
休日はタオル一本手に提げて来る慣はしの市民温泉 難病の妻を看るべく廃院を決意しとぞ医師なる従兄 われもまたそば打ち棒を弟に譲らむとして決めがてにあり ストーブの目盛りを上げて暖をとり凍て強きこの朝の髭剃り 独り居の媼かけこし長電話寂しからむこの夕べには 一椀のお茶も飲めぬとは!胃カメラを飲まむ朝の辛き一とき |
安倍三惠 |
引っ越しのバイトをしている青年は貝殻ひとつ箱に納める 桜花散る今日の朝卒業というイベント盛り上がり終わる 交錯して別れる鉄路幾度もその光景を目にして生きて 煎餅に表も裏もないはずがやはりどこかで見分ける哀しさ |