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平成17年06月号 | |
上石隆明 |
恐竜のごとき雲も流れいき傷つきし心もほどけた気がす 紅梅にぷるぷる揺れし水滴は密会のごとく零れ落ちたり 置き時計容赦もなくに鳴り始め平凡な朝がまたも始まる 応えなき空へと向かう白鳥にただひたすらに雪は降りつぐ さす傘に容赦もなく舞い上がる雪に優しさを求めるは無理 亡き人の笑顔ばかりが浮かぶ日にひともと木蘭香り立ちおり |
春の印象 水野碧祥 |
わが肌にクリーミィなる泡浮かびくるわれは好めり牛乳石鹸 鶺鴒の鳴き声聴いて振り仰ぐ裸木のけやきに春はくるらむ 蔵王山、あずま小富士の見る能う黒巌山(コクガン)は父の墓所なり 春彼岸花に囲まれ父眠る「お酒欲しい」と声が聞こえる 心経を父の墓前であげるわれ拙き読経いかに聴くらむ |
二月の恋 高橋俊彦 |
南天のつぶなる実はひよ鳥になべて喰はれつ雪のあしたを 夜の菜にせむと畑に葱掘れば二月の風にたちまち吹かる 日の照ればたちまちにして消え失せぬはかなきものか二月の雪は 日の当たる二月の園にこの年もシナマンサクの黄花咲き出づ 電話にてこころを告げしそれのみのこの遅咲きの桜哀しも 叶わざる恋と知れどこの夜を長々と書く手紙一通 この恋を成就せさむと岡本のゴムなど買う来るおろかさ |
巡る季節に 安倍三惠 |
美容師の桃色の痣ただじっと見つめてそして目を逸す我 母と見る飛行機雲の真白さゴム跳びしてた季節とだぶる 雨の中煙草くゆらす君に遭うフロントガラスはしっとり濡れて ワイパーに流される雨 信号が青になるまで見つめる、私 何事もない朝なのにぽろぽろと涙が出てる悔しい重さ 営業で猫背になってる上役は梅の花すら見るのを忘れ |