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平成17年07月号 | |
上石隆明 |
梅の葉より転げ落ちんと目覚むれば冷たき朝の気配よしとす 枝もげばぐっと伸び出す新緑は艶もつ声を嫌う耳あり 柿の実の三つばかりを引き寄せるざわつく音は寂しさにも似し 朴の樹にたっぷり溜まる水ありて鈍き音もすあの人思い 心根が父と似たる悲しさや明らむ窓に声を放てり |
水野碧祥 |
黄色なる水仙の花頭垂れ可憐な姿にわれは惹かれつ 青空に鳶が一羽飛んでおり蹴球場の芝はみどりに 蹴球を観ながら花を安積山オーバーヘッドのシュート決まりつ まあまあとすべて言葉となりたるに解決のなき哀れ日の本 |
齋藤芳生 |
友の息子はバイリンガルになるという七等星まで数えんとして 桃色の越前くらげもくもくと増えてなお凪ぐ海より帰る 忘れたきことばかりなりシャンプーの界面活性剤の張力 いちか私も隠しておこう夏草の森にはぐりとぐらのたまごを 産んだ仔を育てられないままはねている兎いて酷暑砕ける |
懺悔のこころ 高橋俊彦 |
職退きしわれはひすがら春雪を眺め経にけり大あくびして 見さくれば空のはてに安達太良はいまだ眠れり雪を被きて 夫のある人に恋してこのわれや今宵ほのかに懺悔のこころ 独り居の寂しさいひて去り行ける君の後ろを吹く春嵐 年金によりわがたづき成りゆけど支ふる側を思えば苦し |
遅れてきた春 安倍三惠 |
霞んでる春の陽射しがやさしくて仙人のように歩いている、われ 朝の陽にさみどりの橋輝いて高校生が自転車を漕ぐ 若い葉が悶えるように芽をひらき私の心もわかくさの色 樹の山をどんどん切って家建ててなんだか淋しい風景である 働けど母の助けになれなくて小さな姿ひたすらにみる |