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平成17年08月号
上石隆明 日曜の中学校の日の丸は孤塁のごとくはためいていた
風の冷たさ空の角度も狂いたる覆いし空にひとつ穴あり
光り差す吾子の机に並びたるメタルガンダム空の匂いす
さざ波の立たぬ田んぼの澱む水懸命に進む水澄ましおり
ゴールデン・ウィークとは名ばかりでいつもの日常我が家にはあり
ビルの間にぬっと出たる飛行機の冷たき銀色かなしく思う
水野碧祥 塚本の冬の音楽読みたれば河島英五の名前なつかし
選びおる漢字一字に味わいが詠が絵となりわれに伝わる
謙信の使いし刀眺めれば長蛇逸した時を思えり
毘沙門に上杉謙信重ねつつ今日の日輪大きく見える
われの買う毘沙門扇子に風起きて川中島を吟じておりぬ
職退きしわれ
高橋俊彦
三月に入りても消えぬ雪のかさ庫裡の裏辺はいまだ冬の気
この店を二十七年治めきて去るべき今日の夕日をろがむ
百年の家をつくろふ職退きしわが残生のたづきのために
早々と床に付けども寝ね難し退職二日目何に気遣ふ
職退きしのちの苦しさ夢なかに蕎麦が足らぬとわれ焦りゐつ
万歩計つけて出でしにこのわれや千歩ほどにて茶房のひとり
ひまわりの花
安倍三惠
移動する上司がひとつ言い残し煙草を消して去る靴のおと
頑張って働く我はひまわりの大きく強い花でありたい
沢山の荷物を運ぶその時に彼とぶつかりぽっかりあく胸
一枚の硝子の壁が隔ててる私と君は見えないふたり
そこはねと電話の向こうで間を置いて雨が降るねと切り返すな、君