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平成17年09月号
上石隆明 初夏の光り愛しく差し込めば水面の映る雲は人形
浅漬けの蕪菁のごとくスライスし大人の恋が終わりを告げる
雑草の蒸したる匂いのしたる径桜並木を隠してしまいて
うっとりと卵を抱きし十姉妹哀しき事を知られて啼きし
何時からか明日のわれも錆び始め緑早くも雨期に近づく
箸先の二本の糸は消えたるも君のつきたる嘘が沸き立つ
社交ダンス
水野碧祥
痩せるため社交ダンスを踊る我キューバンルンバ懐かしくあり
十余年ダンスシューズを休ませて履いてる我の顔に笑みあり
出陣のわれ艶やかに靴磨き紐を結べりシューズきりりと
ストレッチ体操のちにステップをダンスの前に汗は流るる
ワルツの音(ネ)聴き惚れ我のスタートは半歩遅れて円舞ならずや
斎藤芳生 椋鳥の大群眠り沈黙の大樹が支えている空がある
青い薔薇咲かぬ余白に咲く定理女数学者が解きたる夕べ
職員室嫌いの我にも机あればこの鬱は青きペンの先より
電子辞書が壊れた夜は母国語と第二言語の隙間で眠る
漱石の猫横文字に寝ころんでいよいよ饒舌なる君の書架
一まわりいや二まわり 祖母の畑に小さくなった肩ばかり見る
ウォーキング
高橋俊彦
ウォーキングする幾人とこの朝も互いにこゑを掛け合いて過ぐ
常用のビタミン剤に健康のいささか増やせる心地こそすれ
読みさしの小説本を枕にし退職者われ昼をゐ眠る
裏畑に春菊、大根、小松菜の種子を撒きこの無聊を諫む
咲き満てる花水木その並木路をこころ弾ませ教会に来つ
教会はわれのこころの拠りどころイエスを慕い二十年過ぐ