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平成17年11月号
上石隆明 この水に溶けているのは誰の嘘君の若さを今日はうらやむ
プールには青き月が漂いて帰る場所なき人のごとくに
ぬぎ捨てて丸められたランニング秋の風がやさしくまとう
「かなかな」は誰の為に鳴いている雑木林も無くなりし今
飲み会の締めはラーメンと決めている中年太りに負けてたまるか
雲間より青き梯子はさげられる暗き世界を救うがごとく
落しても落しても登りくる祖国のようなシロヒトリおり
オペラ「乙和の椿」
再々上演
水野碧祥
福島大学で「乙和の椿」練習を窓の外には蝉時雨降る
毎日を密かな声で声で暮らすわれ「乙和の椿」に声の出るらむ
楽譜読む団員の目は老眼細き眼鏡を鼻にかけてる
六組の楽譜は汗でぼろぼろに踊りし文字をわれは眺めつ
髪の毛をさらりと伸ばす女のありソプラノの声は遠く響きつ
虚ろなる時
高橋俊彦
いつしらに常連となり虚ろなる時過ごしをり茶房の隅に
四つ翅をもがれうごめく虫のごと我あり職を退きしより
峡の田の稲の葉むらのさ揺らぎに飛び発ちにけり対の蜻蛉は
倹約を美徳と思ふわれゆゑに酷暑の夏も団扇に涼む
浪費こそ悪とし思へば子の点す灯を消し歩く部屋から部屋へ
ムーミン谷へ
安倍三惠
耳鳴りを透かしてとどくひぐらしの声の澄みきて夏のフィナーレ
一本の柳の揺れる枝を見て決意とうものしなやかに生る
母といる時間を超えて嫁という時間はやはり長いのだろう
帰宅するムーミンを待つさみしさに段々慣らす、そうつぶやきぬ
両岸は橋はかかってアカシヤの花が咲いてる未来も今も