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平成17年12月号
上石隆明 妻と子は微笑みながら見つめたる携帯電話は螢にも見え
夕焼けに映し出された嘘のように歯ブラシ全部変えてみました
寂しさの水を含みてつぼむバラに星は無菌の光りを降らす
遠く聞く口笛あまり切なくて空白重く秋を探しぬ
終わりなくリアルに残る夢があり主人公は僕ではなくて
歌劇
<乙和の椿>U
水野碧祥
源義経、佐藤継信、忠信よ育ちし季節には椿咲いてた
オケ合わせ我の心は奮い立つ締め切り間近に鬨(トキ)の声なる
休憩に甘露な飴舐めておりあつき煎じ茶に心癒さる
わが身体つくづく見るに太り過ぎ雑兵姿は似合わざりけり
草鞋履く素足に藁は食み込みて源氏の幟を我は揚げつ
カトリーナ
齋藤芳生
故郷は帰る場所ではなかったか どの色の車も背を向ける
収まらぬ女の怒りを見つめいるCNNのレンズ恐ろし
街中の五線譜をみなひきちぎりカトリーナとはいかなる女
水たまりに落ちた最後の一滴(シズク) 女とは最後に泣くもの
守れなかったものは溢れて偉丈夫を嗤う女の爪痕を見よ
赤い靴で踊るダンスは止まらない壊したけれど街も 音楽も
サマーキャンプに
高橋俊彦
谷川に添ひて茂れる椈の樹の葉陰にしげし熊蝉のこゑ
夕まけて風やむ時し一山をひたふるはせて蜩の啼く
水の輪を広げて跳ねる魚いくつ湖の面は夕暮れにつつ
老い母の植ゑ給ひにし緋の薔薇の一輪を手に施設訪ふ
南瓜この太れる蹴りて決勝のゴールをせむか背に負ふ篭に
しみじみと地維の恵みを思ふなり手籠ひとつのこの馬鈴薯に