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平成18年01月号
上石隆明 スプーンに零れし言葉あまたあり恥かむ心忘れた吾の
畦道に捨てられしゴミ袋蟷螂一匹うごめいており
縁側に忘れ去られた人のごと夕陽を受ける蚊取線香
止めどなき明日の寂しさ肩に乗せ赤き暖簾をくぐりておりぬ
秋桜に揺れているのは秋茜心の罅を隠しておりぬ
ドロドロと右の耳は溶け始め白き真昼の月が傾く
歌劇「乙羽の椿」B
水野碧祥
日本語を正しく語る歌劇にて腹で歌いしわれのありける
基治(モトハル)は戦さで散りぬ石那坂乙羽の花びら舞台に降れり
義経の衣装は深紅に彩りて号令掛ける声は涼やか
弁慶が歌い揚げたり朗々と「主従の道」を説きしみちのく
合唱は一つに融け合わせみちのく魂歌い揚げつつ
斉藤芳生 遺伝子に組み込まれたる無表情持つゆえに我もさかなも無言
弦の着れた楽器か我はただ一人この慟哭が届かぬ男
どの夏においてきたのか妹と我のひまわり色のお喋り
音楽のような髪からこぼれたる髪留めの星を少女に返す
素数こそは音楽にならぬまま美しいと笑む君をこそ美しと思えり
ユダのごとき
高橋俊彦
教会に二十数年通ひきていつしかユダのごとき振る舞ひ
鈴掛の葉の黄ばみ来し今日まひる残暑見舞ひがひらりと届く
秋の気の漂ひそめし空を行く群鳩今し日を返したり
台風の接近ニュースにわが家を幾巡りもす心騒ぎて
父若くT型フォード乗り回しゐること今は知る人ぞなき