年度目次へ
平成18年目次へ
表紙へ戻る
平成18年02月号
上石隆明 閉じられた扉のごときシャボン玉触れてならぬ嘘もあり
柔らかき殻を破れぬ秋なれど慰められしホットミルクに
黒き土冷たき雨がたたきおる幾千万のニワトリの死後に
わずかにも世界とずれる時があり深海の砂を吐き出しながら
何時からか握りし電話ツツツーと君のつきたる嘘にも似て
水野碧祥 「水野殿」わが名を呼べる女子のあり小さき顔に笑みは大きく
赤き顔覗いて見れば学生は「スッピンだよ」とわれに語りつ
腰痛めわれは行かざり札幌へ「大雪だった」と友は語りぬ
第九をば胸張り歌うわれのあり蝶ネクタイを指で直しつ
腰伸ばし背筋伸ばしてわれ歌う歓喜の歌に涙落としつ
齋藤芳生 海流がわずかにわずかに行く先を変えこの星の大気を冷やす
インクのしみのように広がりゆく穴を見ないふり ペンギンも人類も
「あの頃はもろくなかった氷山もしょっちゅう転ぶ子どもの骨も」
脱出を果たした皇帝ペンギンのたまごをキラー衛星が撃つ
蝉の抜け殻
高橋俊彦
わが庭の銀杏もみぢの葉の裏にいまだすがれる蝉の抜け殻
方肺をを取り除かれて姉は居間うからの注目の中に眠れる
わが姉の退院と母の怪我よりの回復今日の佳きこと二つ
真横より吹きくる風に鈴掛の黄ばみそめたる葉群さやぐも