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平成18年03月号
上石隆明 鈍色の心ゆっくり揺れ始めひとつふたつと影と成りゆく
初冬のさびしき光浴びるため小高き丘へ行ってみたし
遠き日の初恋語る君の頬小さくゆっくり火照りはじめた
空っぽな棚に歌集が横たわり軋みし声が谺していた
カーテンに隠してみたき嘘がある今宵の月は冷たき見えし
町中の灯のひとつの我が家もゆっくり上がる土鍋の湯気が
窓を差す冬の陽やさしくしんみりと人ごとのように空は晴れたり

水野碧祥
電飾にわれ魅入られるそれよりも君の笑顔に惹かれつつあり
手を繋ぎ君と眺める仙台に光のページェント美麗なり
喫茶にて紅茶の香り聞きながらドコモ・ツリーの青を見ている
新年は塩釜神社に詣でたる良き縁絵馬に書きしわれなり
高橋俊彦 目覚め疾き齢となりしこの我やいまだ暗きに起きて茶を汲む
茸刈りの道具一式置きしままわれは逃げきつ蛇に怯えて
パキスタン北部の地震にわが町の人口を超す命潰えしか
「一ときの病」と君は躱(カワ)したりわれの贈りし恋歌一首を
来し方の悔いはさておき晴晴と行かむ余生は百歳までも
悔いて今何の益ぞも若き日を蕎麦の卸しに汗したること
異次元に我は暫く遊びゐつ『海辺のカフカ』の頁繰りつつ
『海辺のカフカ』下巻を今し読み終へてよいしよと立てり夕餉支度に