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平成18年04月号
上石隆明 この冬の雪のため息つめ込みて軒の風鈴ゆっくり揺れる
洋梨の香り寂しく漂いて仏間の闇をさわがしており
ムオーンと吾を包みしものがあり追いたてられし獣のごとく
晴れやかに二羽の白鳥飛んでいくああ寂しき母のため息
うつむきてモクモクモクと食べている不覚のような立ち喰いソバ屋
水野碧祥 花束をソプラノ歌手へ手渡しぬ白い指には翠玉(スイギョク)ひかる
握手した白い指には大きなる翠玉われを魅してやまざり
除雪後はキャタピラ跡がくっきりと吾妻の里の雪は溶けざる
除雪車は顛倒しおり路肩から携帯電話でわれに知らさる
この冬はわが身離れぬホッカイロ雪掻く背中守りておりぬ
弟よ
高橋俊彦
脚速き冬雲・留まれる冬雲を見つつありけりカフェの窓より
大福餅のごとき雲なりこのカフェの窓より眺めひとり笑ひす
色褪せし乙女椿の花ひとつ飛び発てよ今宵吹雪けるひまに
来し方の惨のみかくは思ひ出づ色彩グラスに灯をし点せば
弟の安らぎの場となりたるは富士霊峰を仰ぐ墓原
みほとけの元に行きけむ弟が夢に出てきて今朝は目覚めつ