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平成18年06月号
上石隆明 父が逝き母もゆっくり老いはじめわが魂を急がせており
溜息をつけば心が軽くなる庭の紅梅小さく咲いた
雪のごと君の言葉が溶け始め飛行機雲が壊れはじめた
この林檎においやさしく懐かしく男と女の秘め事のごとし
吾にもう後戻りは出来ぬ夜のオンザロックに映えるは水仙
水野碧祥 働いた蒸気機関車五十路超え汽笛の音は悲鳴に聞こゆ
あちこちの部品は痛み修繕をストレス多い蒸気機関車
金色の仏とわれは向き合ひてこころ通はすときぞ嬉しき
雪深い安達太良の嶺眺め見る異動の月となりにけるかも
横になる虹を見てゐる朝ぼらけ君にあげよう栄養ドリンク
高橋俊彦 神の手となりたる今もパテシエの杉野英実は不器用を愛づ
見るのみが楽しみとなる株価欄古き火傷のあとが疼くも
風に乗り庭に飛び来るもの可笑し借金明細書、買ひ物のメモ
目閉づるは眠るにあらず足裏より歌昇りくるまでの所作なり
思想などここにはあらずただ美しと思ひて仰ぐ若き裸婦像