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平成18年08月号 | |
上石隆明 |
車窓にはムッツリ顔が写された使い古したタオルのごとく 存在を確かめて見るネットにはふふふと笑う画面の向こう うっすらと磐梯山は聳え立ち足し算のごとくひかりし湖も 子供らの黄色の傘は眩しくて疑わぬ無垢のひかりを放つ 頭の中にフラッシュバックの絵がありて瞳閉じれば鮮やかになる |
弘前城 水野碧祥 |
弘前城の天守の桜仰ぎ見る五月四日は友の命日 追手門に連なり咲ける桜花疲れも癒えて嘆息してる 天守閣に人間累々と続きたり石垣囲んで桜は浮かぶ 岩木山を仰ぎ見るなり正面に宴で賑わう人間の多かり 子福桜は子が授かる人気あり小さき花を接写している |
斉藤芳生 |
静電気をおびる靴音ぱちぱちと冷たくて少年は触れ得ず 緘黙児の親友であるミッフィーのノートは堅く秘密を守る 南米産の赤い魚を飼っていた 壊れた私のかけらのような 職員室で飲むコーヒーは本当にまずかった嘘がのみこめなくて 君たちに見せた手品の紙吹雪すべてが消える頃に降る雪 |
太陽の匂ひ 高橋俊彦 |
天秤に英語会話と短歌をば載せりやはるはに短歌が重し 太陽には匂ひあるらし干し上がりたるわが布団佳き匂ひせり キリストを盾となさずに生きて来しわが半生は嘘の固まり 教会に二十数年通ひきてかの日のユダの苦悩をも知る 懸崖をなして盛れる山吹の黄金の花に見とれわが佇つ 追ひつきて来し老いの気を払ふべく鏡の中にわれ鏡を染む |