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平成18年09月号 | |
上石隆明 |
頭から魂ゆっくり離れゆく木々の精にとけ込むように 静けさは草薮の中に見付けたりこぼれてしまいし朝陽やさしも 鍔長き帽子を夏に合わせたり葉月の森はわれを誘う 敷妙の隅に浸りし青き月犯してならぬ薄闇に浮く 葉桜が汚きものを消すごとく息子の心閉じてしまいて |
滝桜 水野碧祥 |
滝桜 舞台の上に眺め入る千年経つと聴かされており 福聚寺(フクジュジ)の枝垂れ桜を眺めつつ玄侑宋久綺麗な僧侶 タクシーに案内頼む三春なり枝垂れ桜を間近に見てる 豪雪に枝の折れたる去年の冬桜は「痛い」と嘆きつつある |
斉藤芳生 |
理科室の剥製だけが知る我の恋 山鳥の尾が揺れている 折り紙の赤があなたの掌の中で蝶となり我の目の前を飛ぶ 君の掌をはなれて蝶は空に消ゆ 我もいつかは飛ばねばならぬ ボールペンのボールを静かに転がして君の名を書く夜の灯を恋う 友だちでいましょうずっと 交わし来し言の葉のみな散り果つるまで 蜘蛛の糸ぷつり切れしその後の釈迦の吐息のかおる夕暮れ |
高橋俊彦 |
子供らの姿まれにて公園の施設はなべて風の遊び場 川淀に雄鴨一羽雌どちを離れて黙すわが今のごと 鯉どちはひもじからむか我が歩む姿を認めあはれ寄りて来 鯉はわが来世の姿と思ひつつパン一切れを放り投げつも 通帳と大きふぐりをぶら下げて陶のたぬきは店先に佇つ |