年度目次へ
平成18年目次へ
表紙へ戻る
平成18年10月号
上石隆明 疼きたる心の中にありたるは沈まずにある疲れた太陽
流れくるにおいはカレーでやさしくて良き事起こる予感がしたる
みずみずしトマトのごとき子供らのプールの中に歓声があり
さわやかな風も吹きたるスタンドにビール3杯飲み干しており
汗を拭きビール売りたる少女らのつくり笑顔はぎこちなく見え
赤煉瓦コンサート
水野碧祥
赤煉瓦東京駅に復元の演奏活動続きつつある
赤煉瓦古典音楽に癒されぬ仙台駅の音楽ホール
構内のステンドグラス仰ぎ見る指揮者を照らす色は鮮やか
正宗の兜の上の彩(イロ)硝子神々しさを与えつつある
楽譜落ち顔赤らめる青年はワインレッドのバイオリンを弾く
斉藤芳生 カリフォルニア移民の娘の孫である我はいかなる鉾か言葉は
微笑みと肩におかれた手の意味を考えすぎて割れる風船
散々にかみ砕かれて予報士の語る冷夏は絶え間なく降る
透明な鱗がいくつ光っても変わらない水槽も町も
音声学的にあなたの告白聴けば子音に二度目の揺らぎ
/hohoemi/の中には/ho/というため息が隠されていて 君と向き合う
川土手
高橋俊彦
川土手は桜はなべて樹木医が必要ならむ深く干割れて
川土手の際に客待つタクシーの運転手らは昼寝の最中
塵芥あまた浮かべて流れゆく数億トン昨夜の雨水
昨夜降りし雨を集めて街川は奔るも十万億土を指して
ジッパーを下げしとたんに迸る真清水にして草の葉しをる
異なるものさがりてをらぬこそ好けれ青葉の下の裸像一体