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平成18年11月号 | |
上石隆明 |
目が合えばキッと眼をする子が言うに吾の存在敵のごとくと 夢にみし異香物体暗闇に抱いたあの日は遠からずして ゼブラゾーン網のごとくにここそこに吾のからだが捕らわれている ずっしりと心が重き夕闇に冷たき蒲団に忍び込みたり ゆるやかに阿武隈川は流れたる放り出された老人のごとく 水割りのグラス揺らせど青春の何を捨て去り今の吾ある |
斉藤芳生 |
「抵抗力が落ちていますね?」と店員いう職探しせぬ我が面の皮 魔女二人深夜のテレビを抜け出でて躁の我が鬱の我奪い合う 戦いを止められぬゴルゴ13コンビニをうろつく僕は撃たないでくれ この国が揺れているのに人は皆隣の車両ばかり見ている ねじ花を植えたのは父 沈黙の螺旋は娘二人へと伸び チョコレート中毒患者爆発的に増えて夏我も芯を失う |
知床 水野碧祥 |
知床のウトロに来るわれなりて夕陽が沈むオホーツク海 喧噪と都会の灯り全て消ゆ原生林に深い闇あり シート敷き天を仰げばポラリスや北斗七星まぢかに見える 満天にわが魂は奪われて流星二つ流れゆくなり キタキツネ動き素早く闇中に駆け行く姿われは見ており |
稲の穂 高橋俊彦 |
稲の穂のやうやく出でし田の面を渡りてぞ行く黄てふ白てふ 処暑過ぎて風の息吹も変はりたり稲の穂揺れて赤トンボ飛ぶ 稲の穂のぞつくりと出て垂りたれば農の喜びここに極まる この夏を終とはなして啼く蝉の一途なりけり槻の大樹に 逝く夏はかく寂しきか一山に法師、みんみん啼き競ふなり リリーとふかなしき人に逢ひし日は胸落いたく夜を眠りえず |