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平成18年12月号
上石隆明 葦群に帰り来たる心あり街をよごして椋鳥の群れ
祖母つけし茄子のぬか漬け鮮やかに難き心もほどけてゆけり
蟋蟀が鳴く足下が寂しくて疲れておりぬ百日紅揺れ
夕闇に人がおぼれているごとく満員バスは下って行けり
黄昏に無くしたものを待つごとく蝉の放恣今はおさまる
あめのうずめのみこと
天之宇受売命
水野碧祥
小雨降る神の水(カムイワッカ)の一の滝天之宇受売命は泳ぎつつある
ストレンジャー天之宇受売命を滝に撮る青い瞳の男なりけり
専用の足袋に履き替え岩登り手足に触れる神の水なり
目を反らし天之宇受売命の裸見ず山を眺める監視員あり
禁止区に天之宇受売命は登らむと近づく監視に悲鳴をあげる
斉藤芳生 マニキュアの乾ききらない爪をもて我は戦く母の入院
現実をよく見なさいよと説く母が爪をきるかくもかくも短く
介護保険は解らねど祖母は日本国首相の「鼻が好かぬ」と言えり
熱すぎた牛乳を父は残したり朝食も我の領域ならず
介護員の名前を全て記憶して祖母を送り出す母・元教師
夏の終焉
高橋俊彦
そが思ひ遂げえず逝きし蝉どちもあらむ一向啼き嗄らししに
この日頃秋の虫さへ啼かざるは種の断絶か地維の破壊か
われ切に「リリー」と呼びて親しみし君は一夏のニンフなりしか
せきれいの番まぶしくわが前をよぎりてぞ翔ぶ相前後して