年度目次へ
平成19年目次へ
表紙へ戻る
平成19年01月号
上石隆明 こんなにも高く白雲流れ行き銀の噂を掬いておりぬ
初秋のやさしき風は我が内の旅の心目覚めさせたり
我が息が森の匂いと溶け込みて秋霖の切れ間眺めておりぬ
トンネルを抜け出す様は蛇に似る新幹線の上に赤月
欲望が枯れ果てしも我が内の入日影の湯はたぎりおり
「犬猫を売っています」は悲しかり張り紙まいて死の匂いせし
飯山・阿弥陀堂
水野碧祥
飯山の駅に響いた鐘を聴く福授けると高札にあり
飯山に駅の梵鐘われ撞きぬ秋の深まり感じつつあり
阿弥陀堂柿艶やか照らしおり眼下に見るは千曲川なり
修検の道登り進めばせせらぎに涼を感じて休むわれなり
賽の河原不気味な空気感じつつ奥社への道急ぎ行くなり
斉藤芳生 日本語の起源未だに不明なる雑踏につぶやきを撒きたり
鈴虫の鳴き声を家に溢れさせ隣人はもうニュースを見ない
真砂なすスターバックスコーヒーのロゴの女神に笑われに行く
県知事逮捕のニュース流れる駅前は空いていない、混んでもいない
この子はやさしい恋をしている 妹の髪にとどまる白い花びら
英会話レッスン
高橋俊彦
退職者われの無聊を哀れみて話しかけくる異国人あり
レッスンは今日限りとぞ我もまた根尽き果てて君のみは美し
青葉のみに育ちしゆゑか紋白蝶はキャベッジバタフライとぞ
翻訳の資格を取るとひたすらに英書繰るきみ歌書を読むわれ
塾講師に応募をせしがいらへなし六十九歳は世に用なきか
一押しの足らざりしかと今に悔ゆ六十九歳のバッチャラー我
煙草をば吸はむと止めしメールマンの赤き車に紅葉ふり積む