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平成19年02月号 | |
上石隆明 |
ひっそりと草虫眠るこの庭にわたしの知らぬ母佇みぬ ずっしりと冷めたコンビニ弁当を現場の隅で食べし今日も 薄日指すカフェに映るは誰なりし引きつる口元放置されおり メルアドの紙切れボロボロ札入れに君との関係冷めたままなり 鈍色のヒールが似合う人なれど煙の中に嘘が |
知恩院 水野碧祥 |
阿弥陀尊眺めるわれの奥深く光り輝く西方浄土 うめ婆さん手を合わせつつ阿弥陀尊九十六の齢となりる 本山に籠もる二日はわが身体現身の毒は浄化されつつ 百人の僧の読経は本堂にバリトンの声響きつつある 梵鐘の大きにわれは驚きぬ除夜に撞きたる知恩院なり |
斉藤芳生 |
かつては海の底であったという盆地はわぐわぐと夏の暑さ溜めゆく 空を這う蠍座がぎゅんと身をよじり我にその尾を伸ばそうとする 隣家より我が言動に絡みつくヘチマの蔓の枯るるまま秋 牧歌的とは何の比喩冬の田に必ず打ち捨てらるる空き缶 君という形延々手をつなぐ切り紙細工に触れてもよいか 隣町にたどり着かずに息絶えし鮭の目よなお上流を見る |
無聊をかこつ 高橋俊彦 |
わが裡に空白といふ腑のありてしきりに痛むひとり寝る夜は 役を退き無聊をかこつ我は今虫を引き行く蟻さえ羨し 老いづける気を払ふべくこの夕べ合わせ鏡に髪を染め上ぐ <石に聞く>展を観に来つわれ耳を澄ませど何を語らざる石 わが思惟の足らざるゆゑか此の石もまた彼の石も愛想なかりき 年金と税のはざまに苦渋して先ずめくれるは安売りチラシ |