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平成19年03月号
われ
上石隆明
たっぷりと雪を含みし空見つむ白き鴉は何処に飛び立つ
対岸の葉桜萌えて始まれる春乞う真昼短きひと日
夕暮れに忘れしものを求めたる虹の架け橋探しておりぬ
窪みにはわずかに景溜まりたり悲しき眼映すごとくに
懸命がいずこにあるか今日の我眼鏡拭きて一日暮るる
会津・蒲生岳
水野碧祥
われ生まれて初登頂の山となる蒲生岳にて写真撮るなり
急登の斜面は続く岩場なりわれの手足を信じつつある
冷汗は太陽光に蒸発し平らな岩場に安堵している
山頂に歓喜の声を上げるわれ頬から塩がざらざら落ちぬ
頬に触れざらつく塩は髭につく蒲生山頂食みし茄子漬け
碧空に白い筋雲浮かびけり掴まんと手を延ばすわれなり
斉藤芳生 君を恋うからっぽの胃に珈琲にて流し込みたるバウムクーヘン
えさをまく我の指さえ威嚇する赤き闘魚はセール品なりき
ヘッドホンを外せぬ我の躁鬱を平らかにすべく雪はふるふる
海岸の硝子に混じりてあるといういるかの骨の白きを探す
君の指の記憶も確かに残しいん機械は最期まで機械にて
低気圧まで爆弾のように落とされてこの国はいよよ嬉しそうなり
ウオーキング
高橋俊彦
推敲はきりがあらずも助動詞をひとつ直せばこの助詞が変?
吹く風は頬に痛けれど五キロ程歩きて今日のわが務め終ふ
枯れ落ち葉ふり積もれどもわが庭の季の風情と思へば安し
ぐんやりと折れし時計のダリの絵に引き寄せられて我もぐんにやり