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平成19年04月号 | |
上石隆明 |
知らぬ間に息子は妻を追いぬきぬ大人になれぬにおいを残し 空き瓶に閉じ込められし心根を夕闇ひたひた犯しておりぬ 冬の陽が柱時計に刺さりても重き明日の扉は開く 泥に似た息子の心情持て余す大黒柱は敲き続ける 夕まぐれひとり一人と帰り来る折れてしまったクレパスの箱 |
天保小判 水野碧祥 |
友人が手に触れるため購いぬ天保小判黄金にひかる 手に触れる天保小判は小さくて忠邦治世を思い興せり 水戸黄門、官製談合摘発に千両箱は幾億ならむ 時代劇、長(オサ)が辞めるは常識と盲鳥類の辞めぬ現世(ウツシヨ) 巳が罪擦り付け合う人間数多昔も今も変わらぬ現実 |
斉藤芳生 |
「ちゃいたん(=齋藤)」と呼ばるる週の三時間音譜のようにピンインを読む 李君のセーターは届いたばかりにて黒竜江省の霧が匂えり 普通後(プウトンファ)の四声の波が我が喉にしみとおるまでを見ており君は 習得のためには辞書を喰うともいう李君もその一人なりき 過たず書くということ 李君の打つ句読点の筆圧やよし 今朝方の三時にアルバイトを終えし李君鏡文字に気づかず |
七十路に入りて 高橋俊彦 |
新どしはマタイ六章輪読に始まり兄弟姉妹すこやか 師手づから剥くきて吊しし干し柿を戴きて食ぶ礼拝の後 良き事はなべてやらむと決めてよりはや三月、寒の冷水摩擦 一月の雨に濡れつつ図書館へ急ぐレスコーリニコフの遇ふべく 七十路の坂を登りて振り返りや世は太平ぞ梅の花咲く |