年度目次へ
平成19年目次へ
表紙へ戻る
平成19年05月号
上石隆明 芒揺れ空に引きたる線があり吾を打ち消すアンダーライン
不気味なる石榴の赤に似たるものどっさり吐きし昨日の心臓
撒き散らす風は二番と聞きたれど昨日の夕餉思い出せずに
大き鏡外した裏のうす闇に釘を一本打ち込みたし
閉店のそば屋の硝子戸隅が割れそがれし風が吹き込んでいる
草むらにポーンと投げし石ころが痛いと叫ぶ今日のゆうぐれ
籠もりたる息子へ未来説く が どんなにしても戻らぬ時間
斉藤芳生 日本語にて口論すればこんなにも両唇破裂音使うなり
履歴書の写真の我はいつもいつも右眉を上げて我を怖がる
求人の中より無邪気な手が伸びて「マンガコース先生急募」
吟日族(ハアリイズ)の電子メールは雪となり積もりゆく日本国の東北
しんしんと積もれよ「日本語オンライン求人情報」コピーをとらん
滅びゆく方言あれば盛りゆく方言ありて地図の凸凹
無理な数式
水野碧祥
核弾頭を遮るものは何もなく原発県は射程距離なり
炉心から六〇キロの吾が家なり核弾頭を怖いと思う
拉致よりも着々進む核保有被爆の後に何が残らん
核弾頭の視線逸らして拉致語る平和な国と思う吾なり
李下の冠正す人たち数多なり列島にある汚れたマネー
ろくでなしの鵯
高橋俊彦
ひよどりが来ても平気な平左なる雀の度胸賛に価す
樹の洞にひよの影あり闇に堪へ兼ねたるごとく日に向いて翔ぶ
独り居は時に寂しゑされどこの思ひはひとり我のみならず
声高に「千の風になって」を唄ひつつ男ひとりが夕餉を作る
昼時に告げゐる鐘が冬枯れの森潤してのちの静けさ
商人の企みぞこれ聖日にチョコレート受くわが娘より