年度目次へ
平成19年目次へ
表紙へ戻る
平成19年06月号
上石隆明 水面に大きく開けた鯉の口見つめておりぬ結婚記念日
老い人がゆるりそろりと歩きたるコンビニ弁当両手に持ちて
折れ曲がる樋の孔より滴りし冬雨に似たる口吻をせり
遠き日の募金の羽根の尊さが汚れておりぬ選挙演説
むき出しの黒土まだらに芝桜ここにもありぬちいさな幸せ
隣家より子を罵倒す声いくどその後にありカレーの匂い
斉藤芳生 睡蓮の水の静寂に溜まりゆくミサイルの飛ぶ星に降る雨
泳がない金魚の尾ひれどうしても合わない水が私にもある
虹に光る鱗とひき替えにこの魚たちの得たる水槽
顔文字を多用せずにはいられない乙女らの言葉溶け始めたり
君からのメールの文字がすべて化け携帯電話は震え続ける
例うれば団子鼻もつ横顔と思う故郷は桃の花咲き
水野碧祥 JAL便の札幌行から眺め見る神秘な十和田は瑠璃に輝く
「見てよ!ほんと綺麗な下北ね」やさしく貴女は語りつつある
ウエディング?ドレス着ている隣人の胸の谷間は弾んで見える
隣人を菊川玲と間違える立ち居振る舞いに惹かれつつある
手際良く機内毛布を取り出しぬまぶたを閉じる貴女を見るなり
酒の恐怖
高橋俊彦
酒飲めば血の管なべて脈を打ち赤茄子のごと貌のめくれ来
梅の枝に積もれる雪の弾かれて地に落下するさまも春寒
紅梅に春の淡雪ふりつもり花にはな咲く十万億土
風さむき墓を清めて彼岸花飾ればよくぞ来しとわが祖
森暗き宮に灯りを掲ぐれば石の狐の群れに妻ゐつ