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平成19年08月号
上石隆明 身体ごととけ込みていくは温泉に心どこかに飛んでいきたり
険しき道つまずきながら登り行く吾の片目が潰れたる夢
大なる身体を少し持て余し息子の休日無口なままに
片方の目が盗られたるぬいぐるみひっそり隅で上を見ており
片方の踵の取れた革靴を闇に向かってあなたは投げた
裏山の一本杉に首を吊り偽物として彼は死にたる
斉藤芳生 水道管凍らぬ暖かき冬の朝静かなり人々はバスを待ち
福島弁を呑み込みて我はバスに乗る砂埃きらきらと光る朝なり
働いて<Good,Good>働いた盲導犬よ、ニートって何だ??
カーテンのわずかな湿りに気がついた君の指先睫毛に触れくる
体中の鱗が剥がれゆくような痛みあなたの瞳の中にいて
折り紙を切り抜いた桃をひらひらと落とすあなたが出て行く町に
水野碧祥 臨界の核分裂を眺め見る割れた石榴を思い出しおり
原発で電力供給当然と首都圏の人間(ヒト)反りは合わざる
原発の放射線ある土塊で育む野菜吾は食まざる
眼に見えぬ原子の影脅えつつ被爆の民を思いみるなり
神の領域
高橋俊彦
三十年通ひ続けてなほ癒えぬメンタルイルネス、初夏の雨降る
死ぬるまで癒えぬ病とあきらめてくすりを胸に抱きて帰る
花過ぎて緑の季の至れるにわがパレットは灰いろ一色
生き甲斐と大見栄きれどわが歌は唯事うたの域を出でざる
燃え殻のごとしなどとは誰ぞいふ花鳥風月は神の領域
かけごゑのごと恥しもよ小鳥らが飛ぶ発つときに放つ一声