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平成19年10月号 | |
上石隆明 |
触れられて愛おしきかな鳴るギター月の明かりは撫でていきたり 四十代想像もせぬあの夏に吾の分身死んでしまえり 駅前の土曜の午後は人も満ち何かを忘れて急ぎ足なり 親にさえ知られたく無き孤独口を閉ざした十六の春 開くほど頭を垂れし朝顔を覗き込みたる息子と妻が Tシャツも八月のそらに曝されて息子の自転車消えて行きたり |
斉藤芳生 |
豆腐屋のらっぱやさしき七月の住所は中野区野方二丁目 早稲田通りに一際伸びたるひまわりを右に曲がりて二軒目に住む 丁寧に編まれし路地の行き止まりに握力強き凌霄花 ウィークリーマンションの壁は厚くない 隣の女は達者に歌う 葡萄蔓のように左へ伸びてゆくアラビア文字をたどれば 朝だ 駆け込み乗車はおやめください、むき出しの肩にタトゥーの蝶を飼う人 四季劇場「海」の拍手を逃れたる魚となりて夕暮れをのむ |
水野碧祥 |
大敗の速報アジアを駆けめぐる「憲法改正難」と伝わる 原発の速報世界を駆けめぐる液体漏るる怖さ知るべし あんぜんと語られつくす原発の土地やわらかに雨の降るなり 中越の炊き出し見ればにしの宮われが作りし炊き出し思う |
野干の祭り 高橋俊彦 |
雷鳴はグラスの水を震はせてわが腑の裡の闇まで届く 分蘖は日に日に疾し早苗田に梅雨の晴れ間の陽は差しにつつ 雛鳥の十羽がほどを引き連れてゆく親鴨の猛々しけれ ひもすがらエンジンの音響かせて苑めぐりつつをとこ草刈る 篠竹はつんつんと伸び山あひの草場に野干の祭り始まる 山の端に盛り上がりたる白雲の目に眩しもよ水無月の尽 白き手のフォークダンスの昂りは五十年経し今に忘れず |