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平成19年11月号 | |
上石隆明 |
パチパチと足の爪切る真夜中に息子の携帯微かに疼く 歯磨きの数が家族と合わぬ日は心までもが濡れてしまいぬ 拾いたる子犬に「もも」と名付けし日いつもと違う夕立が来た ゆっくりと住めぬ日本に突き進み温き水田に陽が照り返す 砕かれた硝子のごとき子の心秋雨前線はじけ始める 雨垂れのリズムのごとく醒めし夢不安はいつも隙間に埋まる |
斉藤芳生 |
Abu Dhabi中の子どもがスクールバスを待つ時刻なり親もブーゲンビリアも揺れて 袖に裾に襟に施す金色の刺繍競わせアバーヤが集う アバーヤにも光沢の違いあることを見ており教師たちのお茶会 五人目のムハンマド来て教室に我が並べゆくニッポンを見る アラビアで「ラ!」は「NO!」の意味少年叱りていても歌うようなり 「もし神がお望みならば、また明日。」校長サルマ女史の白き歯 |
運転免許 水野碧祥 |
きん色の眼鏡の縁で仰ぎ見る吾妻小富士の青い空なり やま裾に運転コースは広がりぬ蝉しぐれふる受験会場 一夜漬け受験勉強ままならぬ遙かなむかし高校時代 東京で学生だった四年間安保のむかし思うわれなり 運転の技術も未熟法さえも判らぬわれの不安は満ちぬ |
ひかがみ 高橋俊彦 |
昨夜逝きし嵐をいまだ慕ふがに雲脚疾きこの朝のそら テーブルを拭くスタッフの膕の美しきを見つつ 旨し 珈琲 珈琲を置きて去りゆくスタッフのそのひかがみの仄仄として 稲の穂のやうやく出でし田の面を渡りてぞゆく葉月涼風 解決をせねばと思ひ成し得ざること数多あり また夏が逝く はらからの帰りし家のがらんどう子との会話も途絶えがちなる |