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平成20年06月号
上石隆明 また今日も繁殖するんだ街中で都市型ねずみ整列をする
すぐ僕を殴るためにありし手か 思い出せない高2の自分
わが肩を撫でるがごとく風が舞うようこそここに桜も咲いた
携帯で転送できぬ恋心かかえて君は十七になる
傷跡が残るようにカツターを使って棄てた彼の人生
本当は月の光が欲しかった君とゆっくり愛したベッド
口づけを連想できぬ今宵また聞こえてしまう君の溜息
斉藤芳生 明らかに砂とは違う質量をもちぱんぱんと雨粒ひかる
砂に振りしみこむ雨よ 雨が心底恨めしかった冷夏のありき
我のいまだニッポン臭きを洗わんか洗濯機ぐわんぐわんと回し
水たまりとは待たれてかくも光もの 子らは両手を挙げて飛び込む
砂、ほこり清められたりいっせいに波留窓ひらきゆく雨上がり
内側に雨の粒子を残しつつまた来なさいと鳴る弦楽器
女社長
水野碧祥
外国(トツクニ)で昔馴染み逢ふ貴女は引き止めぬ吾を不信に思う
「航空券二枚あった」と語る貴女誰(タ)がチケットかわれは知らざり
貴女ひとり外国へ行く如月やみちのくの吾は黄昏れに暮れ
乳がんの疑ひ晴れた貴女の笑み遙かなむかしと思ひつつある
人間の思考
高橋俊彦
人間の思考はいはば無限大おなじ筋なき万冊の本
漫画読む若者たちページ繰るその素早さにわれは驚く
客待ちに蕎麦屋のわれや「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」読破
兄弟姉妹の災を負ふがに長女なる姉はまたもや癌を病みたり
神仏は何もしてはくれぬからありがたいのだ念仏三昧