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平成20年07月号 | |
上石隆明 |
呼び捨てにされたることの新鮮さ大好きな傘を広げておりぬ 親友の離婚話を聞きながらショートケーキを二つに割った かきあげる見事な君の黒髪に青春の嘘が包まれている 水面に光がはしる休日の阿武隈川にうぐいすが鳴く 吾子の背が思ったよりも大きくて自分の中の傷つくこころ |
ラス・アル・ハイマと いう古い町 斉藤芳生 |
別邸のひとつで過ごす週末に招ばれてややおろおろと行く 巻き舌のできない私をまた笑う黒衣を着ていないサルマ女史 あなおとなしき駱駝の腹に浮きでたるホースのように太き静脈 放し飼いの駱駝も強く生きてゆく農園のごみなどもあさりて 座り込むこともまたよし風吹かぬ砂山めいて駱駝動かず 母と娘と夕餉にともすやさしさは上手にゆでられたひよこ豆 驢馬は驢馬で私は私であることを赦されて砂に残す足跡 |
山寺 水野碧祥 |
山寺の芭蕉の塚に蝉の鳴く千十段を昇り切るなり 千段の石段きれいに整ひて昔と違ふと思ひつつあり 桜前線日本一の早さにて天気見るたび嘆息あげる なまりあるドンパン節の歌聞こゆ踊りし少女秋田おばこか |
G線上のアリア 高橋俊彦 |
春の夜のすさびに我は正座してG線上のアリアに酔ひぬ 彼岸過ぎ田は起こされて土の香の清々しきが鼻をつきくる 春雨じや濡れて行こうかと見栄切れど黄砂混じる雨は怖いよ マグダラのマリヤと題する新書版昨日買ひえず今日は売り切れ 教会の師の誕生日を祝はむとわれは唄ひぬ聖歌一曲 パッチワークの物入れ重宝してゐます天国に在す冨田姉さん |