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平成20年08月号
上石隆明 重力に逆らわぬよう目覚めたり昨日と違う今日が始まる
わが心根届かぬ日々が過ぎたるも愛するギター君に贈りぬ
犬の名を呼ぶ声響く昼下がり妥協が出来ぬ君の一言
抱擁は堅くならずに終わりたり春の気配が優しく包む
花疲れ遠くに鳴くは鶯か犬と吾との足音もあり
梅の香に吸い込まれるは夕暮れの簡潔なまでの君の言い訳
五月吉日
斉藤芳生
妹はひかる若葉のように笑み嫁いで行きぬ五月吉日
父も母も神社の杉も齢をとり婚礼の日に朗らかなりき
お父さんと一緒に待っていたんだよあなたが生まれてきた日の朝を
さっきから涙が止まらない我は転んでばかりのお姉ちゃんなり
「だいじょうぶおねえちゃんなら、だいじょうぶ」今度は私が言う「だいじょうぶ」
私たちはそれぞれどこに行くのだろう何か見つけて、そしてまた会おう
水野碧祥 新入生の塩生(シオニュウ)君は技能主事柔道三段黒帯締むる
身長は六尺超える男(ヲノコ)なり「三十五貫」とわれは聞きたる
祖母危篤最終列車駆け込みぬ「急行まつしま」忘れ得ぬなり
我の撞く鐘の響きに驚きぬ誰一人なき寺の境内
自然の驚異
高橋俊彦
あな哀れ名さへ知らざる紫の小さき花が藪に息づく
タンポポの和毛光りて飛ぶが見ゆさやさや風を恩寵として
干田は水引き込まれをちこちの土くれに跳ぶ鶺鴒ふたつ
終日を枝に下がりて揺れてゐる蓑虫はきつと嬉しいのだろう
立て続けに幾万人もが死にたりきミャンマーの嵐、四川の地震