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平成20年09月号 | |
上石隆明 |
くしゃみする犬と行きたる朝の道しろつめくさに埋もれていたり 「愛してる」君に言葉をかけぬまま四半世紀を過ごしておりぬ 射精する怒りを込めて射精する押さえぬ心を夢に見ており 髪の毛が総て抜けたる夢の朝何を意識す脳の片隅 亜米利加に夢を見ていた世代にも影を落とすは食料自給率 うら寂し夕焼け空の彼方には日本には無き戦場があり |
斉藤芳生 |
火のようにみどり芽吹けるふるさとをみせばやなみせばなや あなたに 睡蓮の季節となりぬその背をみどりにそめて飛ぶあまがえる 血液はさらにつめたく身に籠り「原油はコカコーラよりも安い」 回教徒になってしまえ(笑)と友の言う我の黒衣のはや擦り切れし その枝の一つに君もぶらさがり逆上がりするマインドシップ 咽頭に思いのほかに固かりき温水育ちのどじょうの骨は 卵胎生めだか殖えゆく水槽に照る月は今し真南を越ゆ |
尾瀬 水野碧祥 |
尾瀬を訪ふ十三人の仲間なり笑ひの多い大人の遠足 「夏の思い出」ピアノ弾きつつ想ひやるいまだ逢へざる水芭蕉の花 われ三度日光キスゲの尾瀬を訪ふ大江湿原黄金に映ゆ 水底に山椒魚は潜みたるじつと堪へて動かざるなり 弥四郎に泊まれば見える至仏山燧ヶ岳に雪は冠せり |
四つ葉のクローバー 高橋俊彦 |
幸せがくるぞといひて乙女らに四つ葉のクローバーわれ差し出しぬ 偶然に捜し出でにしクローバーに葉が六つあり吉か不吉か 独り飲む朝の珈琲 三割にいまだ満たざイチロー頑張れ 日も空も泣かぬ正午に十字架に掛けられしとぞ彼の若者は 午後三時雀のやうに口開き「ラマ・サバクニタ」と呟きて死す 十字架に死にたる人を引き取りしニコデモといふ人好しは我 |