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平成20年10月号
上石隆明 今日もまた「生きていくんだ」言い聞かせ朝焼け色のタマゴ飲み込む
肩書きをしまい込めたる為にある厚みは重し皮の名刺入れ
気がつけば湿り雨過ぐ休日の夏の匂いす息子の髪が
幼児期の面影消えぬわが内に突き返される息子の言葉
灯を付けて眠りし日々があまたあり寂しき心は闇に馴染まず
斉藤芳生 東京の子どもの指がそろばんをはじく音意外に強かり
桃の実の白きうぶ毛の洗われて自死の多すぎる国なりここは
なまあたたかき日本人のふくらはぎ大量に夜の車道を渡る
ベランダのアスパラガスは三度目の緊急地震速報の伸ぶ
このひとがようやく泣いた瞬間を抱きとめた 放してはいけない
「ニッポンはへんな国です、みんなみんな呼吸を止めて歩いています」
水野碧祥 五分間ニコライ堂の鐘は鳴る聖橋にて聴きしわれなり
イエローのキャンドルわれは燭台に魂の焔はほのかに揺れつ
教会でミサを聞きつつ佇みぬ十年ぶりにクロス切るなり
三四郎池に佇む亀眺む色黒々とパンを食食みたり
東京のビル林立に羽仁五郎「都市の論理」をいかに嘆かむ
から梅雨
高橋俊彦
天旱をひたすら嘆き草木らがシュプレヒコールをあぐる夕庭
山路を飾らむために植ゑられしつくばね朝顔草に埋もれぬ
予報では終日晴れといふからに傘を持たずに出てきて濡るる
雨後の川勢ひを得て疾るなり川面窺う鷺一羽あり
三割を切つたらイチロー日本へ還れさくらが君を迎へむ
鴇 悦子 予定なき予定欄あり片時も暇なき日々は昔日となる
職退けば用無き人のように入る我を見ている我がまた居る
合点するアニマルセラピーとう言葉吾娘の残せし猫と暮らせば
充電をして下さいと赤ランプつくケータイと我の身体と
かさぶたを剥がせば出血してしまう心を封印して過ごす日々
風荒ぶあしたの歩道散り敷けるポプラ若葉の希望が無惨